今から十年前の冬・・・
漁村の漁具倉庫を改装した。
ㇳーべ・ヤンソンの「島暮らし」に惹かれて。
海辺の小屋が無性に欲しかった。
素人大工で時間をかけての工事だった。
目的がはっきりしていたので作業工程がおもしろい。
東京の仲間が小屋造りを手伝いに来た。
二人で海辺の小屋を完成させた。
冬場は海が荒れるので漁が暇になる。
時化の日は朝早くから暗くなるまで素人大工をした。
図面は漁師の頭に描いた。
助っ人はカンナもノミも使えない街の人だった。
素人にもできる工法で施工した。
雑な工事だが自分で造るから、好きなものができあがる。
他人の評価は気にしない現場。
親子でつくる夏休みの宿題工作のように。
トーベ・ヤンソンの小屋でありなから、収まりの良いもの。
他人には意味不明だが当事者の製作コンセプト。
小屋ができあがるにつれて工事が楽しくなる。
年明け着工で二月初めには小屋がおおむね完成した。
集中したので予定より早い工期。
電気の配線はプロにお願いした。
コンセントはこだわり3Pでアース線まで埋めた。
安定した電源が欲しかったから。
田舎の古民家を自分で再生する人がいる。
ゴミ出しから始まる作業。
最初は大変だがだんだん面白くなる。
建築家の洒落たリホームやリノベーションとは違う。
限られた予算内と気にしない工期が魅力。
やればなんとかなる古家の再生。
海辺の小屋が完成して十年が過ぎた。
多くの旅人が小屋で過ごした。
トーベの本場フィンランドからやってきた女子もいた。
何をするでもなく、時を過ごす海辺の小屋。
リンドバークの「海からの贈り物」。 ソローの「森の生活」。
トーベ・ヤンソンの「島暮らし」。
漁師が勝手に思う・・・世界三大小屋暮らしの本。
小屋暮らしの日々が文学作品になる。
どこにあるか分からない海辺の小屋。
それでも人の灯りはともる。