駅名の看板がない宇田郷駅。
数年前までブリキの看板があったが、ある日突然に無くなった。
あれから何年も宇田郷駅の看板は無い。
表札の無い家はどこにでもある。
電話機のGPS画面で目的地が分かる便利な時代。
駅に看板がなくても差し支えない。
人に聞くより電波にたよる。
誰もいないので道を訪ねることができない駅。
もしもしで始まる公衆電話がある。
海が荒れると駅舎まで波が届く。
海と駅の間に道路があっても大波は駅に迫る。
波飛沫をかぶる海辺の駅。
大時化の後には駅前に浜石が転がる。
駅が波で流されるのではなく、道路が流されるので工事が始まった。
無惨にも海と道路の間に波除の鉄板が打たれた。
駅前の工事が始まって半年は経つ。
海につながる横断歩道は鉄の塀で行き止まり。
海の風景はしばらくお預け。
塀の裏側には海がある。
晴れた日には駅前の海に赤い夕日が沈む。
宇田郷駅の工事は船で行う。
波除のブロックが山に積まれる道路。
青いペンキがはがれ赤錆になった宇田郷駅の跨線橋。
今のところ修繕の気配はない。駅の利用者が少ないからそれでもいいだろう。文句を言う人もいない。
田舎では有名な汽車の橋。補修工事が始まって半年は経つ。長引く化粧直し。橋が完成してから八十数年が過ぎる。近代の土木遺産。
通過点にすぎない海辺の田舎。開発より守り。